ジルスチュアート2023年秋冬コレクション
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ジル スチュアートがリブランディング。Z世代に向けて、多様性と多面性を備えたファッションブランドに

企業の実例紹介からZ世代を読み解く本企画。今回は2022年に大幅なリブランディングを行ったアパレルブランド、ジル スチュアートのご紹介です。どのような工夫があり、どのような効果があったのか、両ブランドのマーケティングチーフ・齊藤雄介さんにお話を伺いました。

更新 2023.12.14 公開日 2023.08.01
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生まれ変わったジル スチュアートが気になる

ジルスチュアート2023年秋冬コレクション

ニューヨーク発のファッションブランド、『JILL STUART』。1997年に日本に上陸、2008年には姉妹ブランドとして、『JILL by JILL STUART』がスタート。常に女性の「かわいい」を体現してきたこの2ブランドが、2022年12月にリブランディングして注目されています。売上げが好調な中、2023年秋冬コレクションが発表され、ますます注目度がアップ。

このリブランディングがどのようにして成功をおさめたのか、両ブランドのマーケティングチーフ・齊藤雄介さんにお話を伺いました。

写真は、2023年秋冬展示会の様子。

SNSの普及やコロナ禍の影響もあり、ファッションに求める価値観が変化

――リブランディングを行った経緯を教えてください。

「『JILL STUART』は2022年で日本上陸25周年を迎えました。近年はSNSの影響力が増すなどの時流に合わせて、ブランドをさらに進化させる必要性を感じていたのです。さらにコロナ禍が加わり、ファッションの価値観は大きく変わりました。ファッションアイテムをモノとして買うのではなく、世界観に共感して体験を買うという意味が加わったと思います。

このとき、2ブランドの命題となっていたのが、『JILL STUART』は新規のお客さまの獲得、『JILL by JILL STUART』はリピートしてくださるお客さまを増やすことでした。

しかし、当時は2ブランドを別々に運営していたため、ターゲット設定やブランドビジネスの観点が異なっていました。そこで、2ブランドをひとつの事業体として統合し、大きく刷新することになりました。(齊藤さん・以下同)

コロナ禍を経て、自分らしく前向きに進んでいくきっかけとなるファッションが求められている

ジルスチュアートのスカーフ

――具体的にはどのようなことをしたのですか?

「まず、デジタル上でインタビューを行いました。対象者は、ショップスタッフを含む従業員、ブランドのファンでいてくださるお客さまのほか、ブランドターゲットに近い今後お客さまになってほしい層にも幅広く行いました。ブランドを運営する側が、ブランドについてどう思うかではなく、周りから現状どう思われているかを明確にすることを意識しました。

質問内容としては、回答者の嗜好やニーズというよりも、より深いインサイトを引き出せるよう、ライフスタイル全般に関わることを聞きました。例えば、価値観の優先順位です。衣・食・住の3つに、遊(遊び、趣味など)・働(働くこと)を加えた5つに順位を付けてもらい、その理由も聞きました。

すると、『住』『働』の順位が高く、具体的には“家の中での過ごし方”、“自己肯定感を高めるための日々の過ごし方”を重視していることがわかり、コロナ禍の影響が強く反映された結果となりました。

“自分らしくありたい”と思いながらも、コロナ禍で閉ざされてしまった可能性や諦め、何かを始める勇気が出せない、自分に自信がなく周りに合わせてしまう、などといった現代女性の姿が見えてきました。
 
このことから、ブランドとして、現代女性にちょっとした“きっかけを与えられる存在”として生まれ変わるべきだと感じました」

このスカーフはリブランディング後に発売した、お花のサブスク「ブルーミー」とのコラボしたもの。

ブランドパーパスは「今日よりも華やかな明日のために」

ジルスチュアートのワークショップの様子

――リブランディングにより設定したブランドパーパス(ブランドの存在意義)について教えてください。

「はい、『JILL STUART』ブランドでは、現代女性を勇気づけ、一歩を踏み出すきっかけを提供したいという思いを込めて『今日よりも華やかな明日のために』をブランドパーパスに設定しました。“華やか”という言葉は『JILL STUART』を想起させますし、全体に前向きな可能性を感じさせる表現を選びました。
 
なにより、従業員である私たちがこのブランドパーパスを深く理解して体現し、最終的にお客さまへメッセージとして伝わっていったらいいなと思っています」

写真はリブランディング検討時のワークショップの様子。

届けたい思いを決めてから商品を作ることで、体験を提供できるように

――ブランドパーパスを設定して、コレクション自体も刷新された中、今までと大きく変わったのはどんなことですか。

「今までは商品を先に作り、後からお客さまにどう伝えるかを決めていました。しかし、今回のリブランディングからは、先に届けたい思いを明確にしてから、商品を作るという逆のプロセスにしています。商品(モノ)を売るだけでなく、お客さまとのコミュニケーションや提供できる体験(コト)をセットで考えるスタイルに変わりました」

リブランディング後、イメージを現代的にアップデート

――リブランディングした『JILL STUART』は、 今までの甘めなデザインとはまた違う印象を受けました。

「そうですね。リブランディング前はかわいらしさ、甘さを意識していましたが、リブランディング後は『Bold Softness』(優しさと強さ、繊細さと大胆さ)をコンセプトにしています。甘さを無くしたというわけではなく、さまざまなテイストを組み合わせ、新しいスタイリングを作り出せるようにしました。

その根底にあるのはヴィンテージです。もともと、デザイナーのジル・スチュアート本人が、ヴィンテージドレスのコレクターであり、古き良きものを現代的に蘇らせることに長けているのです。そこで、ブランドの再構築となる今回、ヴィンテージテイストを再解釈して取り入れ、モダンさを表現しました。また、甘さについては“クリーン”と呼んでいるのですが、繊細さを兼ね備えた、新たなスタイリングを表現できるものとなりました」
 
――『JILL BY JILL STUART』にはシンボルマークが追加されました。

「『JILL BY JILL STUART』はリブランディング前からロゴアイテムが人気です。そこで、今回新たに、“J”を組み合わせたモノグラムのようなシンボルマークを作りました。新しい可能性の扉をイメージしており、ここにも前向きなメッセージが込められています。リブランディングした『JILL BY JILL STUART』コレクションは、『Be dressed in scent』(香りをまとって)がテーマ。素材の表情やシルエット、カラーのニュアンスなどの繊細な表現により、なりたい自分へ導いてくれる香りをイメージしました。これらの雑貨や洋服を通して、そのようなメッセージも伝えていきたいと思います」

新規客数は前年比120%という、うれしい結果に

―――実際の反響はいかがでしょうか。

「ファッション雑誌の方など、長くブランドを知ってくださっている方からは、“インポートの良さを感じる『JILL STUART』が戻ってきている”といったポジティブな声をいただきました。また、30代・40代のお客さまからは、“私はもう着られないと思っていたけれど、今の自分たちのための服があってうれしい”という声もありました。インフルエンサーさんから問い合わせをいただくなど、SNSでも話題となりうれしい限りです。
 
売り上げも順調で、『JILL STUART』は、新規客数が前年比120%ほどで推移しています(2023年5月現在)。
 
『JILL STUART』の商品の中でも反響があったのは、繊細なパフスリーブのレースブラウスにモードなIラインのジャンパースカートを合わせたスタイル。また、コットンキュプラのジャケットを合わせるスタイリングもご注目いただきました」

水原希子さんや、お花のサブスク「ブルーミー」ともコラボ

ミモザの花とスカーフのセット

―――2ブランド共同のプロジェクト『W/J(ウィズ ジル スチュアート)』とはどんなものですか。
 
「お客さまが自分らしく、幸せな毎日を過ごせるよう、ときには服やファッションの領域を超えた多彩なコラボパートナーの力を掛け合わせて女性をエンパワーするプロジェクトです。

具体的には、第一弾としてお花のサブスクサービス「ブルーミー 」さんとのコラボレーションを実施。国際女性デーに合わせ、記念日のシンボルであるミモザをデザインに取り入れた、スカーフとブーケのセットを販売しました。

第2弾では、水原希子さんとのコラボレーション商品を発売。水原さんを起用した理由は、自身の可能性を制限せず、女優やモデルなど多彩な活動をされていることです。社会的な視点を持っていらっしゃるのも印象的ですね。生まれ変わった『JILL STUART』が大切にしている、“多様性”や“多面性”ともリンクしていると感じ、コラボレーションをお願いしました。

水原さんにご出演いただいたブランドムービーも作成し、多角的に世の中の女性を力づけるきっかけになることを目指しました」

「ブルーミー」とコラボした際のイメージビジュアル。イエローが印象的。

Z世代に寄り添うために、リアルな口コミを生かし、“多面性”“多様性”も大切にする

――今回のリブランディングに伴うコミュニケーション施策を教えてください。

「新しい商品を見てもらう機会を増やすために、展示会をシーズンに1回開催していたところを2回に増やしました。また、メディアの皆さまに商品を見ていただくメディアデーも2か月に1回行うことに。さらに、インフルエンサーさんとのコミュニケーションを増やし、ブランドの魅力を発信してくださるよう働きかけています」
 
――Z世代へのアプローチはどのようなことが大切だと考えていますか。

「やはり、リアリティーですね。インスタライブなどは、参加型でリアルな口コミが集まり効果的だと考えています。例えば、『JILL by JILL STUART』では、以前から人気のバッグ『フリルトート』のプロモーションとしてインスタライブを行いました。デジタルツールを使用し、3D映像で新しいカラーをシミュレーションするというもので、このときご参加いただいた皆さまのご意見をもとに、実際に新しいカラーの商品を発売。大きな反響をいただきました。こういった参加型のライブは今後も行いたいと思っています。
 
今のZ世代は、今の気分やその日会う人、場所、遊びなどに合わせて、ひとりの方がさまざまなファッションを楽しむ傾向があると思います。そんなZ世代に寄り添うためにも、ブランドとして“多面性”と“多様性”を持っていることは大切だと考えています」

『JILL STUART』と『JILL by JILL STUART』が一体化したショップがオープン予定!

ジルスチュアート2023年秋冬コレクション

――今後の展望を教えてください。

「『W/J(ウィズ ジルスチュアート)』プロジェクトのように、今後もファッションだけにとどまらない体験を提供していきたいと思います。『JILL STUART』と『JILL by JILL STUART』が一体化したコンセプトショップもオープン予定です。これからも進化を続けるジルスチュアートにぜひご期待ください」
 
ジルスチュアートの新しい挑戦は、Z世代はもちろん、さまざまな世代に注目されています。時代に合わせた前向きなメッセージは、たくさんの人を幸せにしてくれそうです。

写真は『JILL STUART』の2023年秋冬展示会の様子。

Text:Koharu Makoro(Nananere!)

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