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寒河江尚子
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創業からわずか3年で海外進出へ。環境にやさしいクッキーovgo BakerがZ世代の支持を得た理由

Z世代に刺さる施策とは、どんなものかを探るために、実例を紹介する企画。今回は、ヴィーガン仕様のアメリカンクッキーなどを販売するovgo Baker(オブゴ ベイカー)』を取り上げます。2020年の創業から、わずか3年余りで東京をはじめ各地に店舗をオープン。この春、ニューヨークへ進出するまでに成長した背景にはどんな仕掛けがあったのか。代表の溝渕由樹さんに話を聞きました。

更新 2023.07.04 公開日 2023.05.30
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環境負荷の少ないプラントベース素材のクッキー

ovgo Bakerは、動物性の素材を使わず100%プラントベース(全て植物性素材)で作られた焼き菓子を販売するベイクドショップ。大きくて食べ応えのあるアメリカンクッキーを中心に、店舗では可愛くデコレーションされたスイーツや飲み物も楽しめます。

プラントベースの食品は、ヴィーガンやベジタリアンの方をはじめ様々なバックグラウンドを持つ方が食べられるだけではありません。肉や乳製品を育てる畜産業は環境への負荷が高いため、動物性の素材を使わないこと自体が環境負荷の低減に貢献します。

代表の溝渕由樹さんが2020年に同級生とともに立ち上げたovgo Bakerは、そのコンセプトと見た目の可愛いらしさ、味の美味しさで瞬く間に人気を集め、この春ニューヨークに進出するまでに。その裏にはZ世代をターゲットにしたユニークな施策がありました。

ovgo Baker 代表 溝渕由樹さん

学生時代から人権や食糧問題に興味を持ち、会社員として働いていた2019年に2人の友人と共にプラントベースのクッキーづくりを開始。
青山ファーマーズマーケットやECサイトでの販売を経て独立し、2020年5月に合同会社ovgo(現・株式会社ovgo)を設立。2021年6月には第一号店ovgo B.A.K.E.R Edo st.をオープンさせた。

ブランドを正しく理解してくれたZ世代

―ヴィーガンやベジタリアンの方だけでなく、Z世代をターゲットにしたのはなぜですか?

溝渕さん:「私達が目指しているのは、環境問題や食糧問題を解決する手段として、植物性の商品を気軽に食べていただくこと。お店を始めるにあたり、私達が伝えたいことを正しく理解してくれる層をターゲットにしたいと思っていました。

青山ファーマーズマーケットに出店していたとき、30代以降の方は健康目的で買ってくれる方が多いのに対し、Z世代と呼ばれる20代前後の方は環境問題やSDGsに関心を持ってくれる方が多かったんです。
最初に彼らに受け入れてもらったことで、現在はさらに幅広い層に届けることができています」

―ラフォーレ原宿に出店したきっかけは何ですか?

溝渕さん:「まだオンラインショップが中心だった2020年、ポップアップショップを開催するにあたり様々な候補地が挙がりました。やはりブランドのことを正しく理解して、ファッショナブルなだけでなくサステナブルも理解してくれる層に届けたいと思ったとき、ラフォーレ原宿がぴったりだなと。

開催してみると、狙い通りのお客さんがたくさん来てくれました。今、お店で働いているメンバーはそのときのお客さんが多いです」

ovgo Baker Meiji St.

―お客さんがスタッフになっているのですか?

溝渕さん:「はい。働いてみたい!と声をかけてくれたり、インスタグラムで連絡をもらったりすることが多いので、公式に採用をかけることは滅多にありません。インスタグラムを見せてもらうと、どんなことに興味があるのか、サステナブルにも興味や理解があるかが見えてくるので、合っていると思う方にお願いしています。履歴書は一度も見たことがないですよ!」

―商品づくりでこだわっていることは何ですか?

溝渕さん:「食べ物のお店なので、やはり一番こだわっているのは味。その上で、Z世代に刺さる見た目も大事にしています。メニューだけでなく、空間、グラフィックに関しても、“お客さんが写真を撮りたくなるか”にかなり気を配っていますね。

ラフォーレ原宿の店舗を作るときも、お客さん出身でZ世代であるスタッフのみんなに、どんなメニューを出したいか、どんな家具がお客さんに刺さると思うかをヒアリングしながらつくり上げていきました」

方向性が一致する相手とのコラボレーションでファンを獲得

―ラフォーレ原宿店では、K-POPアーティストやインフルエンサーなど、様々なコラボレーションを行っていますね。

溝渕さん:「打診をいただいたり、私達から仕掛けたりしながら色々なコラボをしてきました。“Treat Urself”というZ世代に人気のファッションブランドとコラボさせてもらったときは、Treat Urselfのファンの方が食べに来てくれたり、食べに来てくれた方が洋服を買いに行ったりと、クロスでファンが増えていく好循環が生まれました。
また、韓国のヴィーガンスキンケアブランド“BEIGIC(ベージック)”とコラボしたときも、SNSでの反応がすごく良く、コラボ商品が毎日売り切れるなど大盛況でしたね。

コラボ相手を選定するときは、私達の考え方やターゲットと合致しているかがすごく重要。たとえ人気のアーティストやブランドでも、方向性が合っていないときは持続的なファンを獲得しづらいと感じます。もちろん、コラボをきっかけに知っていただくことは大事なのですが、サステナビリティを実行するお店としては継続してもらえるファンと出会えることを大切にしたいと思っています」

推し活がフックとなって認知を拡大

ラフォーレ原宿店のメニュー

―ovgoは「推し活カフェ」とも呼ばれていますが、きっかけは何でしょうか。

溝渕さん:「ラフォーレ原宿店を立ち上げる際、スタッフ達の好きなK-POPの曲を流しながら準備をしていたんです。お店がオープンしてからも、スタッフが楽しんで働けるなら!と変更しませんでした。

すると、K-POP好きのお客さんが来てくれるようになり、アイドルのアクリルスタンドと商品を並べた写真を撮影して「推し活カフェ」とSNSに投稿してくれるように。それ以来、あらゆるジャンルのファンの方々が来てくれるようになりました。

偶然の流れでしたが、結果的に良かったですね。お客さんに気に入ってもらえる部分をフックとして活用しながら、美味しさやサステナブルな部分も伝えていけたらと思っています」

柔軟なZ世代の感覚が、サステナブルな取り組みを広める突破口に

ーZ世代のお客さんからは、どんな反応がありますか?

溝渕さん:「Z世代のお客さん達を見ていると、商品のことだけでなく、サステナブルな取り組みについても、気軽に発信してくれます。ヴィーガンに関しては、徹底しているお客さんがいる一方で、やったりやらなかったり、という方も多い印象。でも、それでいいなと思っています。個人が行う取り組みは、小さくてもやらないよりはやった方がいい。1つ始められたら、2つ目をやるのは簡単になりますから。

私自身、お店を好きになってもらうことも嬉しいですが、ovgoの商品をきっかけにサステナブルに対する意識を持ってもらうことは同じくらい嬉しいこと。今後もZ世代の方をはじめ、消費者の方々に選択肢を提供していきたいと思っています」

ovgo bakerのクッキーの写真

ovgo Baker代表 溝渕さんのお話をご紹介しました。SDGsネイティブと言われるZ世代とは言え、環境に良いというだけで商品を買ってもらうのは至難の業。しかし、Z世代の文化を理解したプロモーションがミックスしたとき、「環境に良い」ことが、彼らに選ばれる魅力として効いてくるようです。

海外旅行客が増え始め、プラントベース食品への期待が一層高まっている今、ovgo Bakerの躍進にますます注目が集まりそうです。

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