佐藤寛太 映画『正欲』
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“観る前の自分には戻れない”というコピーで話題の映画『正欲』に出演!佐藤寛太さんにインタビュー

第36回東京国際映画祭でコンペティション部門観客賞と最優秀監督賞をW受賞した映画『正欲』が11月10日に公開されます。その映画に出演している佐藤寛太さんにMERYが直撃! 衝撃作と言われている作品に対しての想いを語ってくれました。

更新 2024.03.22 公開日 2023.11.10
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映画『正欲』は、第34回柴田錬三郎賞を受賞した朝井リョウ氏による同名小説が原作。家庭環境、性的指向、容姿など“選べない”背景を持つ人たちを同じ地平で描写しながら、人が生きていくための推進力になるのは何なのかというテーマを炙り出していく衝撃的なストーリーとなっています。メインの登場人物のひとり、ダンスサークルで活動し、大学の準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也を、佐藤寛太さんが演じます。オーディションで勝ち取った役に対しての想いや、映画について、佐藤さんへお聞きしました。

オーディション前に原作を読破。「物語の中に没入しました」

佐藤寛太 映画『正欲』

ーー原作を読まれて、佐藤さんが最初に抱いた感想を教えてください。

この原作を読んだのが、ちょうど映画のオーディションの話をいただく前だったんです。だけど、読み進めることが少しつらくなって、半分ぐらいで、一度読むことを止めちゃってたんですよね。

メッセージ性が強くて、すごくグサグサと心に刺さるような言葉や描写があって、登場人物たちが生きていく未来に光が見えなかったから、本を置いちゃったんです。

それぐらいの題材なのに、他人事じゃないし、自分自身がすごく物語の中に没入するように読んでいたので。キャッチコピーで、“読む前の自分には戻れない”って言われてますけど、本当にその通りだと実感した作品です。

自分が普通に生きてたら思い至らなかった考えに向き合わせてくれたというか、向き合わせざるを得ない状況を作ってくれた作品だなと思いました。原作を読んだ時に、自分はこれから先、どんなに気をつけていても、無意識であろうが意識的であろうが、多分いろんな人を傷つけたり、傷つけられたりして生きていくんだろうなっていうのは感じました。

佐藤寛太 映画『正欲』

ーー原作を読まれたあとに、オーディションの話が来て受けたんですか?

そうですね。オーディションの話がきて、もちろん全部読み終わってから参加したんですけど、その時に思ったのは、(作者の朝井リョウさんは)何をどう取材して、周りにどんな人がいて、どうしたらこんな話が書けるのかなと思いました。

たとえば、自分が何か役を演じる時、バックボーンを考えて、そのキャラクターを掘り下げるんですけど、小説の掘り下げ方が尋常じゃないというか…。確かにこの人なら、こういう行動をするだろうなっていう人物像の設定がすごく細かくて、人物像が具体的に思い浮かぶし、肌感でその人物の体温を感じるし、“この人の文章は、一体何なんだろう?”ってすごさを感じました。

フィクションなのに、そこに人間が生きているのがすごくわかるから、こんなに思いを馳せられたというか、“登場人物たちが見ている世界はどんなものなんだろう…”と思いながら、オーディションに参加しました。

なので、その時点でもうすでに原作小説にたくさんの折り目をつけて、“こういう風に世の中を見てるのかな?”と想像しながら、オーディションへ参加したのを覚えてます。

「大也だったらどう捉えるんだろう?」と今までの自分にはない視点で世の中を見始めるように。

映画『正欲』場面写真 新垣結衣 磯村勇斗

ーー諸橋大也という役を理解する時に、原作をどんな風に参考にされたんですか?

映画化で変わっているところもありますが、原作で大也について細やかに書かれていたのはありがたかったです。

大也の思っていることは、磯村(勇斗)さんの演じた佳道も、新垣(結衣)さんが演じた夏月も思っていることだから、僕の場合、大也だけじゃなくて、読み解ける対象がいくつかあったので、それは役作りの上ですごく助けになりました。

登場人物のことを考えて、今まで自分になかった視点で世の中を見始めた時に、見えてなかったほうが幸せ、知らずに笑って生きられたらそのほうが自分個人としては幸せだとも思ったんです。

だけど、“その幸せに価値があるのか?”という考えにもなりました。だって、自分が意識しないところで人を傷つけてたとしたら、それが価値があるのか、僕はわからない。やっぱり知ることができてよかったと思うし、知ったからにはもう知らない自分には戻れない。自分の中で向き合って考えて、抱えて生きていかなきゃいけないんだろうなって思います。

僕はこの原作を読んで、映画の台本を読んで、役を演じて、(ドキュメンタリー作品を多く撮影している)岸善幸監督と仕事をしたことで、そうしたことを深く感じられたんですよね。

いや、当事者たちからすると浅いほうですけど、問題の大きさ自体を気付けたし、最低でも“自分が知らない”ってことを知れたかな。

だから、それが映画を観た人にも伝わるといいなと思います。自分は知らなかった、見えてなかったなって。じゃあ見えてないままでいいのかって。そして、知っちゃったからにはどうするのかっていうことを、たくさんの人に考えてほしいですね。

映画『正欲』 場面写真 佐藤寛太

ーー諸橋大也を演じるにあたって、役づくりで工夫したことはありますか?

オーディションに合格してからクランクインまでの二ヶ月ぐらいの間、役を理解したいなと思って。普段の自分の生活で、“大也だったらこのニュースを見てどう思うんだろう”とか、“この人の今のこの言葉をどう思うんだろう”、“町の中に溢れてるその広告に対してどう思うんだろう”とか。自分がどう思うかの前に、大也だったらその情報をどう捉えるんだろうって想像して生活をしていました。

自分なりに役を分析して、細かく役の設定を決めることも、もちろん役づくりだと思うんですけど、本作の場合は、原作や台本がありました。原作には登場人物達の視点が細やかに描かれてるので、人物を掘り下げるというより、“自分はその人物の視点になっていろんなものを見たらどう思うんだろう?”ということを考えて生活したことが、自分にとっての役づくりだったかなと思います。

東野絢香ちゃんとのシーンが印象的。「彼女の演技に笑っちゃうくらい圧倒されました」

映画『正欲』 場面写真 佐藤寛太 東野絢香

ーー印象に残ったシーンや苦労したシーンを教えてください。

どのシーンも平等かな。どのシーンも相手に対して、あんまりいい印象を抱いてない役ですし、相手が話す前から相手のことを少し否定してるような気持ちがあったので、そういう意味では本当にどのシーンも一緒なんです。

だけど、東野絢香ちゃんが演じる八重子と、大学の講堂でぶつかるシーンは印象的だったかもしれない。

現場に行って、絢香ちゃん演じる八重子と対峙してみると、大也としては最初は彼女を拒絶してたんですけど、彼女のむき出しになった感情や、生の人間の息遣いとか体温みたいなのを感じていって。自分の目の前で相手が裸の心をさらけ出した時に、“自分は何ができるんだろう”と考えた、体験した忘れられないシーンでした。

映画『正欲』 東野絢香

ーー共演者のみなさんのお芝居への印象を教えてください。

僕が出てるシーン自体はそんなに多くないので、完成した映画を観た時に、映画そのものを客観的に楽しめたなという気がしました。自分が出てるシーンが多いと、どうしても自分のお芝居のことを考えて、あまり楽しめなくなるんです。この作品は、セクションがしっかり分かれていて転換していくから、自分が出てない部分は、一つの映画として楽しんでいました。

稲垣(吾郎)さんや磯村さんとの共演シーンもあるんですけど、全編通して、僕は東野絢香ちゃんとのシーンが多かったんです。

彼女の芝居は、とにかく凄まじかった。“あ、こんなお芝居する人っているんだ”って。そして、なぜか気持ちが楽になりました。

もちろん絶対本人も(役づくりに)苦しんでるし、そんなことは同じ役者だから想像はできるんですけど、彼女はすごかったです。最初にお芝居を見た時に、すごすぎて笑っちゃいましたね。僕も結構準備をして(現場に)行ったつもりだったけど、彼女には笑っちゃうくらい圧倒されました。

映画『正欲』 稲垣吾郎

ーー稲垣吾郎さんとの対峙シーンも印象的でした。

稲垣吾郎さんとは舞台『サンソンールイ16世の首を刎ねた男ー』で共演しましたが、スケジュール的には実は映画の撮影のほうが先だったんです。なので、映画でのシーンは、稲垣さんと“初めましての日”だったので、緊張しましたね。ずっとテレビなどで拝見していた方なので、そんな方とご一緒できるんだって。

だけどそれよりも、稲垣さんとの共演シーンは、大也にとっても、とても重要な場面ということもあって。大也の中での自分の答えが出るシーンだなと思っていて、大也として考えることがたくさんあったので、緊張してる場合じゃなかったです(笑)。

運動欲が止まらない!「運動しないとバランスがとれない。ごはんと同じくらい習慣になってる」

佐藤寛太 映画『正欲』

ーーこの作品は、欲望がキーポイントになってると思いますが、佐藤さんがプライベートでこれはやめられないとか、これがないと落ち着かないと感じる欲求はありますか?

運動です。僕は運動しないと、まともじゃいられない(笑)。もし1週間全部休みだったら、週5くらいはキックボクシングのジムに行ったりして運動をしてるんじゃないかな。リフレッシュというよりは、もう習慣。ごはんを食べるのと一緒みたいな感じです。

山登りも好きなので、ハイキングの延長みたいな感じで、山に登ってます。趣味を楽しむためにもやっぱり体力がほしいので、運動をしてますね。

物欲は全然ないです。睡眠欲と食欲は普通にあります。朝に運動して、昼寝をする過ごし方が大好きです。

映画『正欲』 佐藤寛太

ーー大也は、普段は感情を抑えて過ごしていて、ダンスで爆発させてるようなシーンもありましたが、佐藤さんは普段から素直に感情を出せるタイプですか?

僕は出せるタイプです。もちろん、感情を出せなかったり、言えなくて、あとで“あの時ああ言えばよかった”とイライラすることもありますけど。

仕事においては、何かを感じたり、思ったことがあったら、直接監督などに聞きに行きます。どんなに時間がなくても、あれで良かったのか。まあ自分の役が重要なシーンとかでなければ、撮影全体を止めることはしないですけど、『正欲』みたいな作品だったら、自分が納得してないとか、できてないとか、そういう感情が(自分の中に)残っちゃう可能性があるから。

普段の生活だと、“こういうことがあったよ”“あれに腹立ったよ”って話すこともあるので、わりと友達に頼って生きてます。同意を求めるとかではなくて、ただ吐き出す感じですね。あとは、運動や趣味などにも頼って、(心の)バランスをとってる感じですね。でも、大也ほど世の中に対していろいろ考えられてないんだろうなとは感じてます。

映画『正欲』 場面写真

ーー『正欲』は人と人との繋がりを描いた作品です。佐藤さんにとって、“いなくならないでほしい”、“ずっと繋がっていたい存在”はどんな人ですか?

家族はもちろんですけど、僕、わりと同業者の友達が多い方なので、その友達とはずっと繋がっていたいですね。

学生の時の親友もいますけど、この業界で生きていると、同じ作品を通して知り合った友達が増えますし、お互いに一番の理解者になり得たりするので。

これまで作品を一緒にやってきて得てきた友達は、将来、自分がこの仕事を続ける、続けないにかかわらず大事な存在だと思ってます。

「価値観や思考が変わる映画。とりあえず観てほしい!」

佐藤寛太 映画『正欲』

ーー最後にMERY読者へメッセージをお願いします!

とりあえず、この作品を観てほしいなってすごく思います。

自分は原作を読んで、たくさんの友達に「この本、すごかったから読んで」ってすすめてるんです。読んでくれた人は、価値観とか思考が変わるきっかけになると思ったから。この映画もそういう作品になるとうれしいですし、そういう人が、一人でも多いと嬉しいなと思います。

特定の誰かに響くというものではなく、年齢、性別、関係なく感じることはあると思うので、多くの人に作品を観てもらいたいですね。

佐藤寛太(さとう・かんた)
1996年6月16日、福岡県出身。2014年に「劇団EXILEオーディション」に合格し、15年に「劇団EXILE」に正式加入。同劇団の公演『Tomorrow Never Dies~やってこない明日はない~』で初舞台を踏む。主な出演映画は初主演を務めた『イタズラなKiss』シリーズ、『恋と嘘』、『わたしに××しなさい!』、『今日も嫌がらせ弁当』、『いのちスケッチ』、『軍艦少年』、『Blind Mind』など。テレビドラマでは、『結婚するって、本当ですか』、『あせとせっけん』など。舞台では、『怖い絵』、『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』など。

カーディガン¥57,200/Vivienne Westwood MAN(Vivienne Westwood Information)、その他スタイリスト私物
問い合わせ先:contact@viviennewestwood-tokyo.net 

映画『正欲』 11月10日(金)全国ロードショー!

【STORY】
寺井啓喜(稲垣吾郎)は横浜地方検察庁の検事。妻と息子と3人で暮らしている。不登校インフルエンサーに影響され、自分も学校に行かずに動画配信をやってみたいと話す息子をめぐり、妻と意見が食い違う。

桐生夏月(新垣結衣)は両親と広島に住み、大型ショッピングモールで働いている。ある日、中学三年生のときに転校した同級生・佐々木佳道(磯村勇斗)がそれまで働いていた横浜から戻ってきたと知る。

神戸八重子(東野絢香)は大学で学園祭実行委員を務めており、昨年まで行われていたミス・ミスターコンテストの代わりに、多様性を称えるダイバーシティフェスの開催を計画していた。諸橋大也(佐藤寛太)が所属するダンスサークル「スペード」を訪ね、出演を依頼する八重子。八重子はあることから、男性がずっと苦手だったのに、大也だけはなぜか平気だ。ダンスの練習に励む大也から目が離せない。そんな八重子の気持ちに大也も気づいていく。

桐生夏月(新垣結衣)は両親と広島に住み、大型ショッピングモールで働いている。ある日、中学三年生のときに転校した同級生・佐々木佳道(磯村勇斗)がそれまで働いていた横浜から戻ってきたと知る。
神戸八重子(東野絢香)は大学で学園祭実行委員を務めており、昨年まで行われていたミス・ミスターコンテストの代わりに、多様性を称えるダイバーシティフェスの開催を計画していた。諸橋大也(佐藤寛太)が所属するダンスサークル「スペード」を訪ね、出演を依頼する八重子。八重子はあることから、男性がずっと苦手だったのに、大也だけはなぜか平気だ。ダンスの練習に励む大也から目が離せない。そんな八重子の気持ちに大也も気づいていく。

それぞれ異なる背景を持つ5人の人生は、ある事件をきっかけに少しずつ交差していくのだったーー。

【CAST】
稲垣吾郎 新垣結衣 磯村勇斗 佐藤寛太 東野絢香

監督・編集:岸善幸 原作:朝井リョウ『正欲』(新潮文庫刊) 
脚本:港岳彦 音楽:岩代太郎
主題歌:Vaundy『呼吸のように』(SDR)
撮影:夏海光造 照明:高坂俊秀  
製作:murmur 
制作プロダクション:テレビマンユニオン 
配給:ビターズ・エンド

©2021 朝井リョウ/新潮社  ©2023「正欲」製作委員会

*Staff*
Photo:Tomohiko Tagawa
Hair & Make:KOHEY(HAKU)
Stylist:Masahiro Hiramatsu
Interview & Text:Natsuki Miyahira

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