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旅に出たくなる!JR西日本『アオタビ』の青春すぎる旅プランがZ世代に刺さりまくっている理由

人気アーティスト『Ado』さんとコラボした旅の特別企画をリリースするなど、旅に出たくなる企画がいっぱい。JR西日本による旅のプロジェクト『アオタビ』が注目されています。2023年8月にポータルサイトがリニューアルしてますますパワーアップ。『アオタビ』がZ世代に刺さる理由を、JR西日本の『アオタビ』担当・松浦さん、アオタビ編集部の小嶋さんにお聞きしました。

更新 2023.11.07 公開日 2023.08.21
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コロナ禍に「旅行したい」気持ちを温めていたから、今人気バクハツなんです!

アーティスト『Ado』さんとコラボした旅の特別企画をリリースするなど、注目を集めている『アオタビ』は、JR西日本によるZ世代を含む若年層向けのプロジェクト。

有名なインフルエンサーとのコラボ企画も多く、飾らない姿でわちゃわちゃと旅を楽しむコンテンツの見応えがすごいんです。

コロナ禍には「いつか旅に行きたい」とSNSで見た情報を保存しておいた人も多いようで、今『アオタビ』する人が増えているそう。

この画像は2023年8月にリニューアルしたキービジュアル。さらにパワーアップしたこのサイトについて、どのようにしてZ世代の心に刺さるものを作っているのか、JR西日本の『アオタビ』担当・松浦さん、アオタビ編集部の小嶋さん(共に以下敬称略)にお聞きしました。

Z世代はこれからたくさんの旅と出合う世代。ぜひ、便利でおトクな旅を楽しんでほしい

アオタビ

ーーなかなか旅行に行けないコロナ禍に、Z世代向けの旅行情報サイト『アオタビ』を立ち上げた、その経緯を教えてください。

松浦:「コロナ禍の社会変容の中、私たちJR西日本は『皆さまに鉄道を使った旅行を楽しんでほしいけれど、今は難しい』という立場にありました。しかしこのとき調査してみると、制限がある中にも工夫して比較的活発に活動しているのはZ世代だということを知りました。

そこで、これから先、たくさんの場所を訪れる機会が待っているZ世代のお客さまに、西日本エリアの魅力と『鉄道の旅』の楽しさや面白さ、便利さ、おトクさを知っていただくために、Z世代の皆さまに向けた情報発信プラットフォーム『アオタビ』を開設しました」

松浦:「JR西日本には若年層のお客さまに多くご利用いただいている商品に『どこでもきっぷ』『サイコロきっぷ』があります。SNSやWEBでのプロモーションを積極的に展開したことで、皆さまに広く知っていただけたと感じています。

『アオタビ』内ではほかにも季節ごとに旅行企画等をリリースしています。多くの若年層のお客さまが、ルールを守りながら旅行を楽しんでくださり、また、いつか行きたいと思ってInstagramに保存してくださっている方も多く、これからの旅に出るきっかけにもなっていると思います。

『アオタビ』では、Z世代に支持されているインフルエンサーの方と一緒に広く情報発信すると共に、さまざまな企画を掛け合わせたチャレンジングな記事を掲載しています。また、地域の魅力的な観光素材のほか、『トクトクきっぷのさらにおトクな使い方』や、『観光列車の楽しみ方』といった、JR西日本のサービスや商品を、Z世代の方にわかりやすい言葉、切り口で紹介できるよう工夫しています。Z世代の皆さまが素敵な旅と出会う場となり、素敵な体験ができるよう展開していきます」

感動体験を便利でおトクな旅で提供してくれるところが、Z世代に刺さるポイントのひとつですね。

(画像は『アオタビ』内で展開した企画のビジュアル)

*トクトクきっぷ:特別な利用条件(区間、列車や利用期間など)のもと、 おトクに利用できる割引きっぷ
*観光列車:列車の内外装が凝っていたり食事が楽しめたりする、乗ること自体を楽しむ列車。

インフルエンサー施策では、彼らの翻訳力に任せ、こちらの都合を押しつけすぎない

インフルエンサーとコラボした企画の写真

ーー目を引くのが、人気インフルエンサーとのコラボ企画です。どのようなことに気をつけて取り組んでいるのですか?

小嶋:「プロジェクトチーム全体で気をつけているのが、インフルエンサーの方を『企業の代弁者』だと思わないことです。そのインフルエンサーの方特有の”らしさ”が最大限に活かされた、SNSクリエイティブの制作・投稿をしていただくことを大切にしています。

フォロワーの皆様は、そのインフルエンサーの方”らしさ”に惹かれているのに、大人たちの事情でそれを抑圧しすぎると、誰かにやらされたクリエイティブになってしまい、結果としてフォロワーの皆さまの心に届かないものになってしまうからです。『アオタビ』が伝えてほしいことを、インフルエンサーの方が解釈して・選んで、ファンに届くように翻訳をして伝えてもらうことが大切だと思っています」

(画像は、TikTokフォロワー総数330万人のあああつしさんとの撮影風景。どこをどう撮るかは、フォロワーが喜ぶことを一番知っているインフルエンサー本人に任せているそう)

インフルエンサー・アルトゥルさんによる福井旅の画像

小嶋:「とはいえ、『自由にやって良いよ』という訳ではなく。『アオタビ』が企画ごとに設定した目的や目標はインフルエンサーの方に明確にお伝えし、協力しながらそれを達成できるように努めています。ほかにも基本的なことですが、社会的ルールや配慮などの守ってほしい部分もきちんとお伝えしています。

それぞれの想いや事情を受け止め合い、”その条件のなかで『アオタビ』を盛り上げるためには、どこが最も現実的で美しい着地点(アウトプット)か?”を、毎回全員で手探りをしています(笑)」

インフルエンサーさんが、いきいき楽しんで制作していると伝わってくるのは、企業側の事情を押しつけない体制のおかげなんですね。

(画像は、サイコロきっぷをPRしたラトビア人・アルトゥルさんの企画。X(旧Twitter)で投稿した旅の様子の動画は2.3万いいね!を獲得)

「Z世代はこういうもの」と、ひとくくりにしないほうが、うまく行く

インフルエンサーとコラボした旅企画の様子

ーー『アオタビ』のコンテンツはバラエティに富んでいますね。Z世代に刺さるものを突き詰めると、こんなに多種多様になるとは驚きました。

小嶋:「はい、そもそも多様性が特徴とされる世代を、ひとくくりで語り、ターゲットにすることは難しいと思います。語弊を恐れずに言うと、Z世代向けのプロモーションで、『Z世代をターゲットにしよう、と考えるのは間違っている』と思うくらいがちょうどいいのかなと思っています。

『アオタビ』も最初はZ世代全部という広いターゲット設定で始まったのですが、スタートから1年余り経った現在は『この年代で、こういう性格で、こういうメッセージを受け取ると旅行に行く人』というようにひとつ解像度を上げたイメージを設定し、そこをターゲットにしています。

(画像は、企画内で活躍している、ファッションも趣味の傾向も、まったくひとくくりにできないZ世代を中心としたインフルエンサーたち)

アオタビ

小嶋:「当初から意識はしていましたが、今年度はより、趣味も行動も多様化している方たち全員にアプローチすることは不可能、と理解し、Z世代の中でも、具体的にどんな人に届けたいかを考えて制作しています。『Z世代』という言葉のキャッチーさに惑わされずに、マーケティングの基本に立ち返り、誰に伝えるかという『WHO』の解像度を上げてとらえることを大切にしています。

もちろん、施策を進めていく中で見えてくることもあるとので、スタートは広くZ世代をターゲティングして、進める中で細かく調整していくのもアリだと思います」

大人側は、ついつい「若い人はこういうものだから」とまとめて考えてしまいがちかも。Z世代にも映えが好きな人もいれば、そうでない人もいます。どんな世代もひとくくりにはできないという基本に立ち返る、当たり前を忘れないことがカギなんですね。

Z世代はお金を使わない? 時代の特徴・年齢の特徴・世代の特徴を混同しない

予算2万円旅という企画の画像

ーーZ世代は、お金を使わない堅実な世代といわれる反面、価値あるものにはしっかりお金を使うともいわれていますね。

小嶋:「そうですね。ただこれは、世代の特徴とは言い切れないと思っています。⼈の価値観や⾏動には、時代・年齢・世代の3つが影響を与えるといわれています。お金の使い方における価値観や行動に関しては、年齢の影響が大きいでしょう。一般的に20代くらいの方々はまだ収入があまりなく、たくさんお金を使えない年齢です。Y世代やX世代の方々も20代のときは、お金を使う際はきっと限られた収入を堅実にやりくりして、自分が価値を感じるものに大切にお金を使っていたはずです。こういった行動は年齢の特徴であり、過去の20代も同じだったのでは?と考えることができますよね。

つまり『お金に堅実だが、価値のあるものに投資するのがZ〝世代”の特徴だ』という考え方で施策を進めてしまうと、いつかズレが生じる可能性があるんです。

ただ、時代・年齢・世代の3つをパッツリ分けて考える必要はないと思います。この3つは複雑に絡み合っており、例えばバブル時代は時代による影響が大きく、お金の使い方が堅実ではない20代も多かったと考えられます」

なるほど… !これは重要なポイントかも?

(画像は若年層を意識して企画した予算2万円の旅行コンテンツ)

アンケートやデータの読み取り方にもコツがある

ーーZ世代へのアンケートなどはどのように読み解いているのですか?

小嶋:「Z世代は○○な傾向がある」という調査結果や記事などを鵜呑みにしないことかな、と思います。まずは、『どんな属性の方に取ったアンケートか』など、情報の背景を確認するべきですよね。例えば、東京都在住や在勤の方に取ったアンケートなら、あくまで都内で活動する方の意見でしかないですし、インターネット上で取ったアンケートなら、ウェブリテラシーの高い方だけの意見に偏っている可能性が高いと思います。社会人と大学生でも回答内容は変わりますよね。回答属性や、どういう質問を投げたかなど、データの裏側を想像することが大切です。

すべてを疑い始めると苦しくなるのですが、数字のゆがみに気づけるよう、統計学の視点を持つように心がけています」

たまたま聞いた意見が世代全部の意見だと思い込まずに、独自の仮説を立てること

Z世代の捉え方ワークショップの資料画像

ーーとはいえ、Z世代の意見を正しく分析するのは難しそうです。

小嶋:「そうですね。それでいうと、誰かZ世代に意見を聞いたとしても、それは『one of themの意見』(大勢の中のひとりの意見)なので、それがすべてと思わないことかなと思います。

こんな経験があります。ある専門学校の学生たちに『好きなSNSのインフルエンサーを教えて』と聞いたところ、みんな違う人の名前を挙げてほとんどカブりが無く、傾向をまとめることができなかったんです。多様性があり、一色に染まらない世代だということを実感しました。やはり、『Z世代のどういう人に向けて発信するか』と解像度を高めて進めるしかないんですよね。

たくさんのデータに触れ、ナマの意見も聞きながら、「このプロジェクトでは、Z世代の中でもこういう人に刺さるのでは」という仮説を立て、施策を進めるようにしています」

Z世代の好きなものは多種多様!全員に届けようと思わず、ターゲットを絞る必要があるんですね。

(画像は、アオタビ編集部主導で行っているZ世代についての勉強会の資料)

『アオタビ』を見たら、旅に出たくなった!と思ってもらえるように

ーー『アオタビ』の達成した成果や、今後の展望などを教えてください。

松浦:「Webサイトの『アオタビ』としては、初年度に目標としていたPV数やリピート率等の数値をクリアでき、多くの方にご覧いただけたことが成果ですね。ほかにも2023年春夏のプロモーションでは、人気アーティスト『Ado』さんとタイアップした企画『響け、旅心。「ハルタビ/Ado」』が話題となり、SNS等で大きな反響をいただいています。引き続き皆様に旅の楽しさをお届けできるような企画を進め、情報を発信していきたいと思います」

小嶋:「コロナ禍に生まれたアオタビは、本当に赤ちゃんのようなメディアでした。それがこうしてリニューアルを迎えられたのは、関係者の皆さまがさまざまな形の愛情を注いで育ててくださったからです。最前線で挑戦を続けるフロントの皆さま、きめ細やかに制作をサポートしてくれるクリエイティブ班、そしていつもエネルギーをくれるインフルエンサーの皆さまに、この場を借りて心から感謝を申し上げます。これまで携わってくださった方とはよりパワーパップした企画をしたいですし、まだ出会っていないインフルエンサーの皆さまや、若年層向けのプロジェクトをしている方とどんどん手を取り合って、アオタビの輪を広げられたらと思います。お気軽にお声がけいただけるとうれしいです」

有名な人とコラボしているだけでなく、細やかにZ世代に寄り添っている『アオタビ』。2023年春からの行動制限の緩和により、旅行需要が伸びている今、ますます目が離せません!

*2023年5月取材時点の情報です。

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