Z世代への認知拡大には、体験型イベントがぴったり
ハイブランドの中でも、いち早くSNSコミュニケーションを取り入れているイヴ・サンローラン・ボーテ(以下、YSL)は、Z世代をターゲットにしたコミュニケーションにも力を入れています。2023年2月2日(木)〜2月5日(日)、渋谷 MIYASHITA PARK内で開催した大型イベント“I AM LIBRE” は、YSLのフレグランス『LIBRE(リブレ)』をテーマに圧倒的なスケールで展開。
Z世代の注目を集め、日本のYSLにおいて過去最高のバズを生み出したというこの体験型イベントについて、日本ロレアル株式会社 イヴ・サンローラン・ボーテ事業部のカスタマーエンゲージメント&コミュニケーション マネージャーである野山佳世子さんに聞きました。
コロナ禍に売り上げが伸びた、フレグランスをイベントテーマに
ーーイベントを行った経緯を教えてください。
「“I AM LIBRE”は、イヴ・サンローラン・ボーテ ジャパンが3年ぶりに開催したイベントです。イベントのメインテーマに選んだ『LIBRE』は、自由という意味を持つフレグランス。フローラルラベンダーの香りはジェンダーレスに使えて、まさに今の時代にぴったりの香りです。
この『LIBRE』は、世界のフレグランス市場でもトップクラスの売り上げを誇るアイテムです。コロナ禍に家で過ごす時間が増え、YSLでも主力商品に変化がありました。コロナ禍前はリップなどのカラーコスメが強かったのが、マスク生活によりスキンケアやファンデーション、そしてフレグランスの人気が高まりました。YSLでのフレグランスの売り上げはコロナ禍前と比較して約2倍になっています。
『LIBRE』は海外での人気は高いのに、日本ではまだ伸びしろがある状況でした。そこで、日本での認知拡大を目的に、若い世代のギフト需要の高まる、バレンタインと春の新生活シーズンを控えた2月にこのイベントを開催することにしたのです」(野山さん・以下同)
目的は記憶に残ること。ほかにはない、攻めたコンテンツを企画
ーーとてもシックで素敵な空間でした。そして、かなりバラエティに富んだコンテンツが揃っていたのには驚きました。
「YSLの方針としては、ブランドのポジショニングでありトンマナでもある『ヤング、エッジィ、ラグジュアリー』を表現する、大胆に攻めたイベントにしたいと考えていました。世界観に没入できることが大切と考え、体験型にこだわった数多くのコンテンツを盛り込みました」
「『LIBRE』には少し変化をもたせた3種類の香りがあるので、自分にぴったりのものをセレクトできるよう、会場内に診断コーナーを設置。また、『LIBRE』にインスパイアされたメイクアップルックの体験、新作リップを試せるコーナー、スペシャルゲストのライブなども。ほかに、ワークショップ、写真展、限定メニューが楽しめるカフェ、ナイトパーティなど、体験が記憶に残るよう、趣向を凝らしたコンテンツを用意しました」
LIBREシリーズのフレグランス3種類とヘアミスト。左から/リブレ オーデパルファム 50ml ¥16,280、リブレ オーデトワレ 50ml ¥14,410、リブレ オーデパルファム アンタンス 50ml ¥18,920、リブレ ヘアミスト 30ml ¥7,480
「ヤング、エッジィ、ラグジュアリー」な場所、渋谷『MIYASHITA PARK内』
ーー会場に選ばれたのは、2020年7月に誕生した渋谷カルチャーの発信源となっている複合施設『MIYASHITA PARK内』でした。ここを選んだ理由を教えてください。
「アクセスの良さだけでなく、渋谷の中心にありZ世代の集まる場所を探しました。『ヤング、エッジィ、ラグジュアリー』を表現でき、今っぽく尖っていて、カルチャーを象徴するスポットです。外国人観光客からも注目を集めている『MIYASHITA PARK内』がまさにイメージに合った場所でした。
公園の下にハイブランド、ハイブランドの横に飲み屋横丁、さらにホテルやカフェ、ギャラリーとさまざまなカルチャーが集まっているのもユニーク。渋谷区立宮下公園 芝生ひろばのほか、複数のカフェなどがあり、たまたま遊びに来た人が、何だろう、と思ってもらえるのも魅力に感じました。実際、『LIBRE』の存在感を強くアピールでき、ブランディング面でも大成功だったと思っています」
1FのカフェもYSL仕様に。道ゆく人からも華やかなイベントの様子が見えました。
ローラ、JO1のほか、豪華な顔ぶれが集まり、SNSでスピーディに拡散された
ーー来場したゲストが華やかでSNSでも大いに話題になりました。写真は、イヴ・サンローラン・ボーテ ジャパン アンバサダーで会場のガイド役としてビデオなどに出演したローラ。
同じくイヴ・サンローラン・ボーテ ジャパン アンバサダーのJO1も来場。会場の音声ガイドを担当しました。
ナイトパーティでは、UA、 水曜日のカンパネラ 詩羽(うたは)によるライブパフォーマンスを開催。
モデル、インフルエンサーなどの有名人がゲストとして多数来場し、多くのSNS投稿を生み出しました。写真はパーティでのショット。左から/朝比奈彩、磯村勇斗、kemio。
左から/桜田通、せいら、高橋文哉。
左から/三吉彩花、山下幸輝、ヨンア
木戸大聖、kemio、佐藤晴美、桜田通のポートレイトを展示した写真展も注目を集めました。
ワークショップに力を入れ、体験とともに記憶に残る仕掛けに
――イヴ・サンローラン・ボーテ ジャパン アンバサダーのローラさんがこのイベントの記者会見で、「香りは記憶とともにずっと残るもの」とコメントしていましたが、まさに、香りとともに思い出に残るイベントでした。
「ほかのブランドさんのイベントと大きく違ったのは、かなり本格的なワークショップを多数行ったことだと思います。体験と一緒に『LIBRE』が記憶に残るようにという意図でした。例えば、WAACKING DANCER IBUKIさん(写真)によるダンスレッスン。参加者はYSLをイメージした黒・金の衣装に身を包み、レッスンに取り組んでいただきました。
人気美容クリエイター の水越みさとさんをお招きしたワークショップでは、撮影の裏側やTikTok撮影のヒントなどをトークショー形式でレクチャー。参加者にも動画を撮影していただき、かなり特別な体験を提供できたと思います。
すべて参加費は無料。参加された方から「本当に無料でいいんですか?」と言っていただいたくらい、内容の濃さにもこだわりました。
ほかにも調香やメイクアップ、フラワーアレンジメントなどのクラスを開催。参加者はワークショップ後に『I AM LIBRE』のイベント本会場に足を運ぶという導線であったため、『LIBRE』の香りとともに特別なワークショップの体験が記憶に残ったと思います」
最近のZ世代は、以前よりも大人っぽい嗜好に。本格的なフレグランスが受け入れられている
ーーZ世代の『LIBRE』への反応はいかがでしたか?
「『LIBRE』の本格的で強めの香りが受け入れられていると感じました。イベントでは最も深い香りの『リブレ オーデパルファム アンタンス』がZ世代に人気でした。柔らかく優しい香りが好まれるとされていたZ世代の嗜好が変化してきていると感じます」
ーー今のZ世代は、5〜6年前よりも大人っぽいものを好む傾向にあるのでは。Z世代に人気のファッションブランドも、大人っぽいデザインのものが多く、Z世代の「かわいい」が大人っぽいテイストにシフトしている印象です。
「そうですよね。全体にミニマルでシンプルなものが流行っていると感じています。そのため、シックで大人っぽいYSLの世界観が受け入れられる流れになっていると思います」
Z世代がハイブランドを購入する理由は「特別な体験」に価値を感じているから
ーーYSLのアイテムはZ世代からすると決して安くない価格帯だと思います。イベントを開催してZ世代にアピールするのはどうしてですか?
「確かに、ブランドとしては幅広い年代のお客さまがいらっしゃいますし、イベントやSNSでリーチして、購入に繋がっている年代は、20代後半〜30代前半がメインです。それでも、最近は10代〜20代前半の方からの売り上げが伸びています。ブランドとしては、これから長期的なファンになってくださる10代〜20代前半の方に認知を広げたいと考えています。
この世代では、3月と4月の新生活シーズンにご購入くださる方が多いのです。大人の階段を登るステップとして自分用やギフトにYSLを選んでくださる方が多いようです。
高価でもご購入くださる背景としては、YSLのアイテムでメイクしたり、香りをまとうことを、特別な体験として、価値を感じてくださっているからだと思います。好きなものにはお金を使い、そうでないものは引き締める、やりくりに堅実な世代なのかなと思っています。
ーー買った後の満足感、持っているという特別感が続くので、決して高くないということですね。
「YSLのアイテムを使うたびに高揚感があり、そういった価値に共感してくださるZ世代にメッセージが届くよう、イベントでYSLの世界観に触れていただく機会を作ることが大切だと考えています」
カフェは体験型イベントに欠かせない要素。雰囲気、写真映えするメニュー、味、すべてにこだわった
ーーカフェはこうしたイベントに欠かせないコンテンツですが、どんなところにこだわったのでしょうか?
「YSLをイメージした空間に”かわいい”はNGですし、イベント全体の統一感も無くなってしまいます。そのため、『LIBRE』の世界観を全面に押し出した、大人っぽくクールな演出にこだわりました。ドリンクやフードも『LIBRE』をイメージした黒・金・ラベンダー色に。写真映えするだけでなく味にもかなりこだわり、何度も試食を繰り返して開発しました」
ーーZ世代向けのイベントの、甘くかわいいイメージとは違ってとても大人っぽい空間でした。
「大人っぽすぎるのかな? Z世代の方に受け入れてもらえるのかな? とドキドキしていたのですが、実際にご来場くださった若い世代のお客さまからは『素敵空間だった』『幸せ空間だった』と好意的なレビューをたくさんいただきました。「カフェだけでも行きたい」という声もあり、YSLの“正解”を受け入れていただけて、成功だったと思っています」
体験型イベントの効果。店舗への集客と過去最高のバズを獲得
ーーイベントの効果はいかがでしょうか?効果はじわじわと出てくるもので、今はまだそんなに見えてきていないでしょうか?
「実は、即効性も大いにあったと見ています。イベント内のポップアップショップでの売り上げが目標通りだっただけでなく、限定品である『リブレ ディスカバリー コフレ』は、イベント会場分で準備した数が会期中で早期完売しました。また、周辺店舗のメイクアップ体験が予約で埋まりました。これは、イベントでのメイクアップ体験がすぐに満席になってしまい、予約できなかった方や、イベントに来てくださった方が、イベント後もYSLを体験したいモチベーションを継続してくださっているのではと推測しています。
ーーSNSでのバズ効果はどのぐらいあったのでしょうか?
「SNSも大きな成果を出しており、過去最高のバズを生み出しました。インフルエンサーやタレントなどのゲストを誘致したことで、その方のアカウントやファンの方からの波及効果が生まれました。
特にZ世代のインフルエンサーはSNSをメインプラットフォームとしていることもあり、強い拡散力があります。イベント会場に来られなかった方も、ゲストの投稿を通して、没入体験ができたのではないでしょうか」
新規顧客の獲得、顧客エンゲージメントの向上だけでなく、純粋にファンを獲得できたのが大きい
ーー目的を達成したイベントになったということですね。
「イベント目的は『LIBRE』を知ってもらうことですが、さまざまな体験型コンテンツを通して、YSL全体の世界観を香りとともに記憶に残してもらえたと確信しています。そして、Z世代を意識した『体験型』が、幅広い世代に刺さったとわかり、実りの多いイベントでした。
4日間という短い開催期間に多くの集客を生み、来場者の熱量も高かったのが大きなポイントです。新規顧客の獲得と、顧客エンゲージメントの向上として大成功を納めただけでなく、これからずっとファンでいてくださる方が増えたと思います」
Z世代はハイブランドの顧客として大切な存在
ーー今後、Z世代とどのようなコミュニケーションを取っていくのですか?
「Z世代の嗜好や消費意識が変化してきて、十分にYSLの顧客・ファンになりうる存在だと感じています。そのため、今後もZ世代の心をつかむ、体験を重視した、ラグジュアリーで自分を高めてくれるようなイベントやプロモーションを展開する予定です。今後はマスクを着けないシーンも増えるので、YSLを代表するリップアイテム『ルージュ ヴォリュプテ キャンディ グレーズ』で大きな仕掛けも考えています。Z世代に使ってほしい、Y2K気分にぴったりなトレンドカラーの新色も発売します。
ルージュ ヴォリュプテ キャンディ グレーズ に新3色が、2023年3月24日(金)発売。「JUICY SYRUP COLLECTION」と題して、トレンドの“Y2K”気分を盛り上げる、弾けるようなピーチローズから、イチジクのようなテンダーピンク、クリーミーなモカブラウンまでが揃います。
Z世代は、「モノ消費」よりも体験を重視する「コト消費」、友達と同じ時間を過ごす「トキ消費」に高い関心を示すといわれています。本イベントは、まさにZ世代の嗜好を押さえたものだったのではないでしょうか。
YSLブランドのメイクアイテムを使い、フレグランスをまとうことが、Z世代にとって自分を高めたり、心地よくさせる体験に。これからも、YSLがZ世代を魅了し続けることでしょう。
会場のコンテンツをオンラインで見ることができる、イベント特設サイト。<2023年3月31日(金)まで>