サステナおしゃれの手法「アップサイクル」に注目!伝説デニムをマルチに再生
「アップサイクル(upcycle)」という言葉を、あちこちで聞く機会が増えてきました。
SDGsやサステナビリティーの文脈で、古着やリメイクと一緒に語られることが多いのですが、実際には少しずつ意味が違います。今回は世界的に勢いづくアップサイクルの魅力をご案内します。皆さんのこれからのおしゃれに役立てていただけるとうれしいです。
◆アップサイクルとは?リサイクルとの違いって?
アップサイクルによく似た言葉に、リサイクルがあります。自転車でおなじみの「サイクル(回す)」という言葉が共通していることからもわかる通り、不要品や在庫品を活用する点では同じです。
では、違いは何かというと、「価値が上がるかどうか」。回収したペットボトルを、そのまま再びペットボトルとして再利用するのであれば、価値は上がらないので「リサイクル」です。「リ」は「再び」という意味です。
一方、アップサイクルのほうは、価値が上がり(アップ)ます。回収した古着に手を加えて、単なる古着として販売する以上の価値を持つ”新作アイテム”として販売されるのなら、アップサイクルになります。「手間を掛けて、価値を高める」というところに、単純再利用のリサイクルとの違いがあるわけです。
そのため、古着を生かした「リメイク」はアップサイクルの一種と言うことができます。デザイン性などが加わって、オリジナルな価値が高まるかどうかがポイントです。
アップサイクルのよさは「いいとこ取り」にあります。ごみが抑えられるのに加え、おしゃれなアイテムにバージョンアップできる。古さと新しさをダブルで生かす試み、とも言えるでしょう。
さらに、手仕事感が加わるという、見た目上のメリットもあります。ヴィンテージや古着がベース素材の場合は、こなれた雰囲気も備わるでしょう。
代表的な手法には、たくさんの端切れ布を縫い合わせる「パッチワーク」があります。形も色もバラバラの布を縫い合わせるので、できあがりはオンリーワン。不ぞろいの表情がかえって親しげな表情や、型にはまらない動きを生んでくれます。
<Safari Lounge> フラッグ/価格未定
◆「もったいない」哲学で「いいとこ取り」のアップサイクル
実は日本には、昔からパッチワークの伝統があります。名前は「襤褸(ぼろ)」。ひどくダメージを受けてしまった状態を指す「ボロボロ」と同じ系統の言葉です。使い古した布や着古した衣服を指し、各地の農家で使われてきました。
端切れや小布を縫い合わせた「ぼろ」はハンドメイドの文化として世界的に高く評価されています。川久保玲氏(「コムデギャルソン」)と山本耀司氏(「ワイズ」)が1980年代前半にパリで発表した装いは「ボロルック」と呼ばれました。
小さな布でも捨ててしまわず、最後まで大切に扱うという態度には、現代のサステナビリティーに通じる意識が感じられます。日本特有の「もったいない」という消費哲学ともつながる考え方です。
◆約20トンのデニム在庫が生まれ変わる!「デニム de ミライ ~ DENIM PROJECT ~」
アップサイクルが関心を集めるようになったのは、地球環境問題やSDGs、サステナビリティーが盛り上がってきたから。「ファッション業界は廃棄物が多い」という指摘への反省も、アップサイクルの動きを押し上げてきました。
こうした流れを受けて、ファッションブランドやアパレル企業もアップサイクルの取り組みを加速しつつあります。
たとえば、「デニム de ミライ ~ DENIM PROJECT ~」は国内外約50のブランドやクリエーターが参加したプロジェクト。約20トンのデニムパンツ「リーバイス 501」のユーズドストック(着用済みのデニムパンツ・デニム生地)をアップサイクルしようという試みです。
参加企業の名前を見て驚くのは、三越伊勢丹や阪急阪神百貨店といった、本来はライバル的な立場にある企業も一緒に参加しているところ。大がかりなアップサイクルには手間や資金がかかるので、たくさんの仲間が手を組むほうが好都合です。
でも、これまではライバル意識や取引関係などが邪魔して、なかなか大きなワンチームを組み上げられずにいました。
今回は時代の流れと意義の大きさを踏まえて、立場の異なる様々なプレーヤーが参加しています。こういう変化からもアップサイクルが大きなムーブメントに育ちつつある様子が伝わってきます。
◆人気ブランドの創意工夫で「オンリーワン」のアイテムに
プロジェクトの発端になったのは、アメリカのロサンゼルスで、ダメージや汚れがひどく、引き取り手がいなかった約20トンのデニムパンツ「リーバイス 501」。1本1本を丁寧に洗濯し、再利用可能な状態に整えたうえで、新たな価値を持つ商品として蘇らせていくチャレンジが始まりました。
<3.1Phillip Lim>ジャケット・トートバッグ/価格未定
約50のブランドやクリエーター、アーティストが思い思いのアイデアや技術を持ち寄った結果、150型以上のアイテムが誕生しました。
姿を変えたアイテムもたくさんあります。たとえば、「KIJIMA TAKAYUKI」は帽子にリメイク。「Sergio Rossi」はウィメンズの靴に(写真)、「3.1Phillip Lim」はジャケットにトランスフォームさせました。
アパレル以外への「変身」も多彩です。「mina perhonen」はトートバッグに再生。現代アーティストの肥塚毅氏はデニムアートに昇華させました。
<Sergio Rossi>ウィメンズシューズ 左¥121,000・¥132,000
これらのアイテムはどれも1点ものの魅力を発信しています。もともとのデニムパンツという出発点とは大きく異なるゴールにたどり着くプロセスで、素敵な「掛け合わせ」の魅力が加わりました。
デニムパンツという役割を変えずに再生したケースもあります。でも、当初のたたずまいとは別物にアレンジ。さまざまなクリエイターが持ち前のデザインセンスや加工技術を注ぎ込んだおかげで、愛着を感じやすい「オンリーワン」の一着に仕上がっています。
<minä perhonen>トートバッグ ¥36,300
◆ファッションの「金継ぎ(きんつぎ)」と言える「ダーニング」
もっとも、アップサイクルは急に盛り上がってきたわけではありません。たとえば、ヨーロッパには昔から「ダーニング(darning)」というカルチャーがあります。穴が開いたり、摩擦ですりきれたりした衣類を補修する修繕方法です。靴下のかかとやパンツの膝などが痛んでしまった経験は、誰にもあるでしょう。
こういう補修の場合、日本では目立たないようにつくろうことが多いようですが、ダーニングは逆。むしろ、直した部分が目立つ感じでつくろっていきます。できあがりには縫い目や当て布がはっきりわかるようになり、味わいのある見え具合に。この「見せる補修」がダーニングのおもしろいところです。
<嘉門工藝>旅持ち茶籠「デニム」の宝箱 ¥77,000
実は日本発のダーニングと呼べそうな文化もあります。それは「金継ぎ(きんつぎ)」。ひびが入って割れた陶磁器を、ゴールドを使ってつなぎ合わせる伝統工芸です。
現代の技術や接着剤を使えば、つなぎ目が目立たないように仕上げることは不可能ではないのですが、金継ぎではわざとゴールドを使って、割れ目やひびを目立たせます。いったん破損したことを物語る金継ぎの跡は、丁寧に補修した持ち主の気持ちを示す証拠になり、愛着を代弁するかのよう。オンリーワンの価値も伝わってきます。
欧米では今、この金継ぎが大人気になっています。サステナビリティーを象徴する取り組みと映っているようです。これも壊れた茶碗や皿を捨ててしまわず、むしろ価値を高めるという点でアップサイクルと言えます。
◆「Y2K」トレンドをアップサイクルデニムで取り入れ、自分好みのおしゃれに!
今年は2000年頃の装いが復活する「Y2K」トレンドが盛り上がっていて、当時の代表的なアイテムとしてデニムにも光が当たっています。ただ、トレンドになってきたおかげで、やたらとデニム姿の人が増える状況になりつつあるので、ありきたりではないアレンジを加えたいところです。
<Vivienne Westwood RED LABEL Concept Store > CHAOS SHIRT ¥99,000
その点、アップサイクルを施したデニムなら、見た目の珍しさを印象づけやすいのに加え、地球にやさしいファッションも選べるから、一石二鳥のチョイスに。ちょっと誇らしい気持ちにもなれそう。
「デニム de ミライ ~ DENIM PROJECT ~」は2022年3月23日から伊勢丹新宿店でスタートします。約50のブランドとクリエーター、学生らが賛同したプロジェクトのストーリーに触れて、この機会にアップサイクル・デビューしてみてはいかが。
<AKIRANAKA>デニムパンツ ¥59,400
ファッションジャーナリスト:宮田理江さん
Profile:10を超えるメディアで連載を持つファッションジャーナリスト、ファッションディレクター。新聞からSNSまで多彩なメディアを通じて海外・国内コレクションのリポートや最新トレンドの紹介などを発信。次シーズンのファッション予測、着こなしテクニックの解説、おしゃれ市場の動向分析、ファッション関連ニュースの執筆、映画のファッション読み解きなどを多面的に手掛けている。著書『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(ともに学研パブリッシング刊)は、中国、台湾、タイでも翻訳発売されている。