なぜ今、みんなが「古着」を着るのか?数多いメリットをファッションジャーナリストが解説します
古着ブームが勢いを増しています。値段が安いうえに、こなれて映るから、古着を好む人は増える一方。でも、古着人気が盛り上がる理由は、ほかにもありそうです。MERY読者のみなさんの中にも古着好きが多いかと思います。今回は古着ファンが増える理由・背景を、おしゃれとライフスタイルの両面から解き明かしてみます。読者のみなさんと一緒に考えていけたらうれしいです。
まずは古着の魅力を挙げてみましょう。「値段が割安」「選択肢が多い」「こなれて映る」「今では手に入らないデザインと出合える」「オンリーワンのかぶり知らず」「経年変化(時間を経て生じた、風合いの変化)が味わえる」「穏やかな雰囲気」「自分で探す楽しみ」など、たくさんありますね。このような魅力が古着ファンを増やす理由になっているのでしょう。
古着を通して、ファン同士でコミニュケーションが広がる

もうひとつ、コミュニケーションのきっかけになりやすいのは、見逃せないポイント。同じ品物を見付けにくいから、古着は「その人らしさ」の表現となり得ます。自分の「分身」みたいなところもあるから、お気に入りを着て自慢したくなるのも、古着のよさ。
同時に、「その古着、いいね」「どこで、買ったの?」といった会話のきっかけにもなりやすく、「古着から始まるつながり」も期待できそうです。そういったコミュニティの代表格が、yutoriが運営している「古着女子」です。
古着好き女性の間で支持を得ているコミュニティメディアが、インスタグラム上の「古着女子」。フォロワー数は28万人を突破。古着好きユーザーを巻き込みながら、好みの着こなしや古着への思いなどを共有するコミュニティを広げています。
コーディネート紹介本やイベント開催など、SNS上にとどまらない取り組みで、古着ファンを増やしてきました。インスタ上では大勢のインフルエンサーが古着の魅力を発信。コミュニティ参加者も自分好みの着こなしを披露。古着好きに役立つ参加型コンテンツが盛り上がっています。
「古着女子」の人気が示すのは、たまたま巡り会うという形で手に入れることが多い、古着への愛着です。偶然のパワーで運命的に引き合わせてもらったような間柄だけに、個人的な思い入れも格別。他人とかぶる心配もいらないから、自分らしい「オンリーワン」の着こなしに生かせるのです。
’90年代の古着カルチャーをアップデート。「新品古着」の魅力

「古着女子」がプロデュースしている、1990年代のボーイッシュテイストを打ち出した古着セレクトショップが「9090(ナインティナインティ)」です。
古着をミックスしたスタイリングを提案。古着アイテムのネット通販に加え、古着テイストを帯びたオリジナルアイテムも販売しています。
ストリートやワークウエアの気分を漂わせたアイテムも「9090」で人気を得ています。たとえば、’90年代にスケーターが好んで着ていたペインターパンツをサンプリングして独自にデザイン。このペインターパンツというのは英語で「塗る人(painter)」という言葉が示す通り、もともとペンキ職人や絵描きが作業の際に着用していたワークパンツのことです。いわゆる作業着ですから、道具類を吊るすためのループや、ツールをしまっておくポケットが付いています。こういったちょっと武骨なディテールは古着テイストを印象づけてくれそうです。
今回企画されたアイテムでは、作業中にペンキが飛び散ったかのようなホワイトとブラックのペイント加工が施されているのが、見どころの一つ。本来の用途を物語るアイコン的ディテールです。近ごろはこうしたユーズド感を醸し出す工夫を凝らした新品アイテムも、様々なブランドからたくさん登場しています。
9090(ナインティナインティ)ってどんなブランド?

「9090」というブランド名が物語るように、’90年代カルチャーからサンプリングした、少しだけ懐かしい雰囲気のアイテムがそろっています。こちらの「JUNKIE DAY」は好きな服を着て、好きな音楽を聴きながら、1日を過ごしたいという女の子の気持ちをイラストで表現しています。
緑のグラデーションが印象的なグラフィックも、’90年代のバンドTシャツを思わせる、時代感を帯びたデザイン。全体にタイムレスなムードを漂わせています。
落ち着いたテイストを醸し出すから、1枚迎え入れるだけで、コーデがこなれて映るのは、古着ならではのメリット。残りのアイテムがベーシックなプチプラ系でも、自分好みの表情を盛り込めます。時代を超えて、たくさんのデザインが流通しているので、お気に入りのタイプを選びやすいのも、古着のいいところです。

「9090」はヒット曲『うっせぇわ』の歌い手、Adoさんとコラボレートしたアイテムを発売して、話題を集めました。『うっせぇわ』の世界を写し込んだこのコレクションにも古着テイストが生かされています。
『うっせぇわ』は強烈なタッチのイラスト画でも有名ですが、今回はあのモチーフではなく、青いバラのイラストや、歌詞のイメージを英語訳した「I WANT SILENCE OR DEATH!」「I'm not just a Pretty Girl」のメッセージなどをプリント。Adoさんらしさをデザインに落とし込んだTシャツやシャツを販売しました。
本当の古着には、どうしても「状態」の問題がついて回ります。色落ちやほつれ、型崩れなどが主なトラブル。清潔感や衛生面などを気にする人もいます。その点、古着テイストの新作アイテムは、心配がありません。古着と新品の「いいとこ取り」がかなうわけです。デザイン面で現代的なアレンジが加わっているのも、「新品古着」のよさでしょう。
古着から始まるつながり。愛着や思い入れが共感を呼ぶ
「MERY」にも古着に関する記事がたくさん公開されています。読んでいて気づくのは、「古着には誰かに伝えたくなる魅力がある」ということです。自分が見付けたお気に入りショップを紹介する記事が多く、おすすめの着こなし術やリメイクの案内なども。記事のそれぞれに書き手の愛情や思い入れがうかがえ、古着から始まるつながりが共感を呼んでいることも感じられます。
誰もが買える新品とは違って、レアな掘り出し物には、そのアイテムを見付け出した本人ならではの目利きセンスや価値観を感じ取れます。オーナーの「分身」のような存在になるわけです。そこから「伝えたい」という気持ちが生まれ、「古着女子」のようなコミュニティが活気づくことにもつながっているようです。つまり、古着はそれ自体が「コミュニティツール」と呼べるでしょう。
サステナビリティにも貢献 自然体のゆるさが今の気分
古着は「世の中にモノを増やさない」という点でサステナビリティの象徴的存在です。大量生産・大量廃棄を前提にした、「地球に厳しいファッション」を嫌う人たちにとって、ポジティブに感じられるのかもしれません。誰かの愛着を受け継ぐような、服との誠実な向き合い方は、地球環境を大事にしながら丁寧に暮らしていきたいという考え方になじむようです。
シーズンごとに「新トレンド」とうたって提案される新品に比べ、古着は自分のペースで選びやすい点も、心地よさを感じられます。流行にせかされないファッションと呼べるでしょう。「9090」のようなオンラインショップが増えて、たくさんの在庫から自分の好みに沿って古着を選びやすくなったことが人気を後押し。「宝探し」のようなワクワク感は、膨大な商品バリエーションがある古着ならではの魅力です。
ゆるい自然体の雰囲気に仕上げやすいところも、今のおしゃれマインドにぴったり。こなれ感を出しやすい「新品古着」も選択肢に加えて、この夏は古着スタイリングを取り入れる人がますます多くなりそうですね!
(画像協力)古着女子、9090
ファッションジャーナリスト:宮田理江さん
Profile:10を超えるメディアで連載を持つファッションジャーナリスト、ファッションディレクター。新聞からSNSまで多彩なメディアを通じて海外・国内コレクションのリポートや最新トレンドの紹介などを発信。次シーズンのファッション予測、着こなしテクニックの解説、おしゃれ市場の動向分析、ファッション関連ニュースの執筆、映画のファッション読み解きなどを多面的に手掛けている。著書『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(ともに学研パブリッシング刊)は、中国、台湾、タイでも翻訳発売されている。